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第4回 スペクトロスコピアンプ開発

 関連製品  A1008(NIM型8chスペクトロスコピアンプ)

 今回は弊社のスペクトロスコピアンプの開発状況についてお話ししたいと思います。

現在、特注品においては仕様を限定してアンプを組み込んだシステムを販売しておりますが、テクノエーピー製のスペクトロスコピアンプは販売できておりません。

これは弊社の代表的な製品がDSPであるがゆえスペクトロスコピアンプを販売しないという方針だったわけではありません。スペクトロスコピグレード、つまりHPGeの性能を損なうことない性能の製品が開発できなかったという所にあります。

 下記の画像は開発品の残骸です。
 revが10になってますので、10回も試作して、失敗をしてきたと言うことになります。



Fig. 1

 今や放射線計測においてもDSPが全盛の時代ですので今更スペクトロスコピアンプを製品化したところで開発費を回収して利益を生み出せるか疑問ではありますが、放射線計測回路を販売しているメーカーとしてどうしてもラインナップに入れておきたいという願望がありました。

 漸く今年になって試作品が満足する性能がでました。今後製品化していきたいと思っています。

 開発当初、現在市販されているスペクトロスコピアンプの設計は80年代と古い設計でしたので、最新のICなどを駆使して設計すれば簡単に同等以上の性能になるだろうと軽く考えていました。

 出来上がった試作品はICがどうのこうののレベルでなく、知見が足りなすぎてお呼びでないよという散々な結果でした。

 その後も思い立って試作してダメ、また何年か後に試作してダメ、が繰り返されていきました。何がダメだったのかも思い出せないぐらい行き当たりばったりでした。

 一方でDSPは精力的に開発をしていたため、同時にアンプの知見も貯まりつつありました。最終的に3つのポイントにしぼって一つずつ克服することにしました。

 1) ガウス整形(アクティブフィルタ方式)の理解と設計
 2) ベースラインレストアラの最適化
 3) 低雑音ハイブリット増幅回路の設計

 今回は1)についてお話ししたいと思います。

 一般的なガウス整形回路(アクティブフィルタ方式)はFig. 2の様に初段にポールゼロ調整付微分回路があり増幅回路を挟んで4次の積分回路という構成になると思います。



Fig. 2 ガウス整形回路


 完全なガウス整形のS/Nは1.12でラプラス変換された式は Eq. (1)となりますが、積分を∞回することは不可能です。




Eq. (1)

 S/N比1.14のアクティブフィルタはk1とk2というフィルタの鋭さを示すパラメータが現れますが、τ=RCの時定数をずらすことによりk1とk2を調整できます。

 Eq. (2)はラプラス変換された式になります。



Eq. (2)

 4回の積分回路のτ=RCの時定数を4箇所一緒にします。
 
 Eq. (3)のように簡単になります。



Eq. (3)

 この回路も1.17のS/N比がとれて経済的で簡単な回路になります。これが微分1回積分4回方式です。

 この回路がどのような波形になるのかをPCでシミュレーションするために逆ラプラス変換をして時間領域関数に直します。

 ここではMaximaという数式処理ソフトを利用します。マサチューセッツ工科大学で開発されたものです。

 連立方程式、微分積分、微分方程式、今回のようなラプラス変換など数値でなく数式を出力してくれます。数式の所をコピペするとC言語で張り付きます。

 弊社みたいなアプリケーション開発メーカーには大変有り難いソフトウェアです。しかもフリーソフトウェアなんです。

 Fig. 3はEq. (3)をラプラス変換して単位ステップ入力を与えてそれを逆ラプラス変換した時間関数です。



Fig. 3 Maximaラプラス逆変換 微分積分4


 Fig .4はEq.(2)をラプラス変換して単位ステップ入力を与えてそれを逆ラプラス変換した時間関数です。

 結構ややこしい式になってしましましたが、コピペで簡単にコード化できます。




Fig. 4  Maximaラプラス逆変換アクティブフィルタ

 時間関数になったのでtを振れば波形になります。
 アクティブフィルタ方式はk1とk2の最適解を導出できるかが肝(内緒)です。

 Fig. 5は時定数1μsです。
 アクティブフィルタ方式の方がベースラインに戻るのがはやいですね。



Fig. 5 アクティブフィルタと微分積分4の比較したシミュレーション

 Fig. 6は試作機でオシロスコープで比較したものです。
 時定数は6μsです。シミュレーションとほとんど同じですね。



Fig. 6 回路での実測

 Fig. 7はベースライン付近を拡大しています。
 計数率が高くなるほどアクティブフィルタ方式の方が有利になりそうです。



Fig. 7 ベースライン付近拡大

 それではMCAに繋いでスペクトルを測定します。

 ここでは、ガウス整形方式に絞って性能差を比較するために開発完了の試作品を抵抗、コンデンサの定数を変更して測定しました。

 ベースラインレストアラ、低雑音増幅回路は最適化された状態で波形整形の方式を比較しています。

 Fig. 8はアクティブフィルタ方式のスペクトルです。



Fig .8 アクティブフィルタ方式のγ線スペクトル

 Fig. 9は微分1回積分4回方式のスペクトルです。

 アクティブフィルタ方式に比べ若干分解能が悪いですね。
 特に低エネルギー側が悪いです。



Fig. 9 微分積分4γ線スペクトル

 無視出来ないレベルの性能差があるのがわかりました。
 アクティブフィルタ方式の理解と設計ができたことでようやく光がみえました。

 他のポイントはまた別の機会に記事にしようと思います。

 今後はスタンダードなNIMの1ch版、8chとか16chのマルチチャネル版、アンプとMCAと高圧電源が一緒になったスペクトロメータなどアンプ製品を開発していこうと考えております。

 それでは、より良い製品が作れるように社員一同全力で頑張ります。
 応援の程どうぞよろしくお願いします。

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Last Update 2024/5/15