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第5回 USB-MCA仕様変更

 関連製品  マルチチャネルアナライザ APG7300D

 USB-MCAは販売して約14年になります。PCのUSB電源で動作可能なMCAとして、兄弟分のUSB-MCA4と並び弊社の人気製品です。国内外に累計300台以上の販売実績がありますが、主部品のA/Dコンバータが生産中止となってしまった為に今回、再設計する運びとなりました。一部仕様が変更されますのでご報告致します。

マルチチャネルアナライザ APG7300D

 大きな変更として、固定変換時間が0.5μsから1μsとなっております。スペックとしてはダウンになりますので、今までのお使いお客様には大変ご迷惑おかけしますが、何卒ご容赦お願い申し上げます。

 USB-MCAは逐次比較型ADCを用いたMCAです。アナログ回路で構成されたピークホールド回路でパルスの波高を検出して、逐次比較型ADC で読み取り、ピークホールドをリセットするという回路で、10年前までは主力のアーキテクチャでありました。今でいうところのアナログMCAです。

 最近では高速のパイプライン型ADCを用いて数十nsごとに波形を取得し、FPGAでデジタル的に最大波高を検出するMCA製品が増えてきております。

 後者の利点は、変換時間が早いこととリセット時間が不要であることです。そのためスループットはデジタルMCAの方が有利です。また Fig.1 のようにパルスのピークを検出したらすぐにADCデータを取得、ヒストグラム作成に移り次のパルスに備えるというfastタイミングを構築しやすい点があります。

 fastタイミングの利点は、パルス立下り後にADCデータを取得するabsタイミングよりデットタイムを削減することができることと、高計数時において分解能の劣化を幾分抑えられるということにあります。

 弊社のUSB-MCAはピーク検出回路をアナログ回路で構成しておりますが、実装のしやすさはFPGAによるロジック回路の方になります。しかしながら、逐次比較型ADCも進化を続けパイプラインADCでは得られないS/N、積分非直線性、微分非直線性を持ち合わせております。

 弊社はDSPが主力のメーカーですが、シンプルなアナログMCAも長年培われた信頼が有り、今でも根強い需要があります。アナログMCAの技術向上も踏まえて最新の逐次比較型ADCを採用してみました。


Fig.1 USB-MCAのピーク検出のタイミング

 今回の再設計で逐次比較型ADCを最新のICに変更いたしました。デジタルICの進歩も目覚ましいですが、最新の高精度ADCも素晴らしい製品が誕生しております。

 しかしながら、仕様ギリギリの性能を引き出すのは電源回路だったり、ピークホールド回路だったり、アートワーク設計だったりとアナログ回路設計の良し悪しにかかってきます。

 コンセプトとしては、スライディングスケールなしで優れた微分非直線性を実現することを目標としました。スライディングスケールは微分非直線性を改善するために設けられる回路ですが、乱数を入力信号に加算しますので、若干、低エネルギー側の分解能が悪化します。また、使用できないchが発生します。

 その他にもMCAとして積分非直線性、低ノイズ、温度ドリフトなど重要な項目は沢山あります。完成した試作機でまずスペクトルを取ります。

 HPGe→スペクトロスコピアンプ(572)→MCA(試作機)です。分解能(FWHM)は1.597keV@1.33MeVと十分な性能です。


Fig. 2 USB-MCAで測定したγ線スペクトル、横軸エネルギー


Fig.3 USB-MCAで測定したγ線スペクトル、横軸チャネル

 Fig.2 のスペクトルを横軸エネルギー(keV)からチャンネル(ch)に直したスペクトルがFig.3です。Fig.4は積分非直線性の結果です。フルスケールを1.5MeVに設定して、Am241の59.54keVとEu152の1.4MeVの二本のピークで直線補間します。二本のピークに挟まれている他のピークが、理論値に対して計測値がどれだけずれているかを確認します。

 線源を使えば数点ではありますが、簡単に確認することが可能です。積分非直線性が悪いとピークサーチによるエネルギー定性が狂ってきます。未知のピークを測定する際、大きな影響が出てしまいます。

 仕様では、積分非直線性<±0.025%ですので、ADCゲインが16kchで測定した際には<±4chになります。


Fig.4 USB-MCAの積分非直線性

 Fig.5は、微分非直線性の試験結果です。微分非直線性は各チャネルが占める幅の均一性を表す特性であり、MCAで滑らかなスペクトルを得るためには±1%以下が目安となります。

 検査方法としては、パルスジェネレータのリファレンス電圧に、ゆっくりと0Vからフルスケールまでスイープした信号を繰り返すのこぎり波を入れて、0Vからフルスケールまで徐々に波高が大きくなるパルスを発生させます。そのパルスをアンプを介して、MCAに接続して長時間測定します。統計誤差がなくなるまでずっと計測していくと、だんだんと各チャネルの個性が現れてきます。Fig.5は約101時間測定したスペクトルです。

   パルサ→アンプ→MCA
    ↑
   スイープ信号

Fig.5 USB-MCA微分非直線性

 Fig.6 は Fig.5 を拡大したグラフです。ここでは各チャネル平均85620カウントまでため込んでおり、振れ幅のmaxが86470カウント、minが84820カウントです。差をとると±1%以内に収まることが確認できます。

 ADCゲインが8kチャンネルの場合は±0.5%となります。実際には16kチャンネルで±1%以下はかなり厳しいスペックです。


Fig.6 USB-MCA微分非直線性拡大

 非常に高精度なMCAが開発できたと思っております。この新型USB-MCAにはスペクトル解析ソフトも付属する予定です。旧式のUSB-MCAを買っていただいた方にも是非使っていただきたいので、ケースはそのままで基板変更のキャンペーンを考えております。この記事を見ていただいたUSB-MCAをお使いの方は、弊社までご連絡ください。

 また、ディアルポートで2Dスペクトルも可能な”USB-MCA2”なるものも開発しようかなと考えております。

 それでは、より良い製品が作れるように社員一同全力で頑張ります。応援の程どうぞよろしくお願いします。

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Last Update 2024/6/12